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線形代数をわかりやすく(4) 線形空間

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はじめに

本記事は線形空間論の勉強をしたまとめです。 私の理解が誤っている可能性がありますので、その際は優しく指摘していただけると嬉しいです。

 \mathbb{R}線形空間

いよいよ面白くなってくるところ。  \mathbb{R}^nの性質の中でも特に重要な要素だけを残していったときに見えてくるものが線形代数の醍醐味なわけだ。

線形空間の定義だけ確認できればいい人はココ

n次元実数ベクトル空間の8つの性質

高校生の頃に習ったいわゆるベクトルには重要な性質が8つあった。 (重要だなんて誰が決めたんだということについては置いておいてほしい。)

  1. ゼロベクトル0は任意のベクトル v \in \mathbb{R}^ 3について

     \displaystyle
v + 0 = 0 + v = v
    である。(ゼロベクトルの存在

  2. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}^ 3について、すべての成分の符号を逆にしたベクトル -vとの和は

     \displaystyle
v + (-v) = (-v) + v = 0
    となる。(逆元の存在

  3. 任意のベクトル u, v \in \mathbb{R}^ 3について、

     \displaystyle
u + v = v + u
    となる。(和の可換性*1

  4. 任意のベクトル u, v, w \in \mathbb{R}^ 3について、

     \displaystyle
(u + v) + w = u + (v + w)
    となる。(和の結合法則

  5. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}^ 3について、

     \displaystyle
1v = v
    となる。(1倍しても変わらない

  6. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}^ 3と任意の実数 a, bについて、

     \displaystyle
(a + b)v = av + bv
    となる。(分配法則(1)

  7. 任意のベクトル u, v \in \mathbb{R}^ 3と任意の実数 aについて、

     \displaystyle
a(u + v) = au + av
    となる。(分配法則(2)

  8. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}^ 3と任意の実数 a, bについて、

     \displaystyle
(ab) v = a(bv)
    となる。(まとめてスカラ倍可能

これらの性質は \mathbb{R}^ 3に限らず、一般の \mathbb{R}^ nについても成り立つ。

公理化

線形代数を教えるときには誰しもが目を輝かせ鼻息を鳴らしながら説明するところがココなのではないかと私は思う。 それは「公理化」という考え方。 かっこよく言うと、「公理化」とは「発想の逆転」である。

n次元実数ベクトル空間は上で示した8個の重要な性質を持っている。 さらにこれらの性質を使って様々な議論を繰り広げることができる。

ではここで、発想を変えてみよう。 上で示した8個の性質さえ満たしておけば、(別にいわゆるベクトルでなくても)同じ議論ができるのではないか? であるならば、この8個の性質こそベクトルについて議論するうえで本当に大切なことであるはずだ! ならいっそ、この8個の性質を満たす空間をベクトル空間(線形空間)と呼び、その元をベクトルと呼んでしまおう!

これが「公理化」である。

初めは「おいおい大胆すぎるだろう」と思うかもしれないが(いや、思ってくれるならそれはもう公理化の虜になりつつあるのだが)、改まって考えてみると実に合理的だと感じさえする。

線形空間の定義

冷静に書くつもりが、「公理化」でつい興奮しかけてしまった。

というわけで、線形空間(ベクトル空間)を定義する。


定義
集合 Vが以下の3つの条件を満たすとき、 V \mathbb{R}線形空間(ベクトル空間)と呼ぶ。

  1.  Vに和(+)が定義されていて、

     \displaystyle
\forall u, v \in V, u + v \in V
    である。(和について閉じている

  2.  Vにスカラ倍が定義されていて、

     \displaystyle
\forall v \in V, \forall a \in \mathbb{R}, av \in V
    である。(スカラ倍について閉じている

  3. 以下の8つの条件を満たしている。

    1. 次式を満たすようなベクトル 0 \in Vが存在する(ゼロベクトルの存在
       \displaystyle
v + 0 = 0 + v = v
    2. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}について、次式を満たすようなベクトル v' \in Vが存在する(逆元の存在
       \displaystyle
v + v' = v' + v = 0
    3. 任意のベクトル u, v \in \mathbb{R}について、
       \displaystyle
u + v = v + u
      となる。(和の可換性
    4. 任意のベクトル u, v, w \in \mathbb{R}について、
       \displaystyle
(u + v) + w = u + (v + w)
    5. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}について、
       \displaystyle
1v = v
      となる。(1倍しても変わらない
    6. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}と任意の実数 a, bについて、
       \displaystyle
(a + b)v = av + bv
      となる。(分配法則(1)
    7. 任意のベクトル u, v \in \mathbb{R}と任意の実数 aについて、
       \displaystyle
a(u + v) = au + av
      となる。(分配法則(2)
    8. 任意のベクトル v \in \mathbb{R}と任意の実数 a, bについて、
       \displaystyle
(ab) v = a(bv)
      となる。(まとめてスカラ倍可能


 Vが上記の定義を満たすならば、その元はベクトルと呼んで差し支えない。

以下の例はすべて \mathbb{R}線形空間になる。(証明は面倒なので省略)

  • 複素数全体(実部が第1成分、虚部が第2成分のベクトルと同等)
  • 実数列全体(第 i項が第 i成分のベクトルと同等)
  • 区間[0,1]で定義された実関数全体
  • 多項式全体( x^ iの係数が第 i成分のベクトルと同等)

これの何がうれしいかというと、高校のころに習ったベクトルの知識をいろいろな対象に対しても使えるよと言ってくれているのだ。 例えば音声などを時間軸を横軸、音量や音の高さなどを縦軸に取った実関数の形で表現すれば、ベクトルとして扱える。

今まで3次元空間の矢印に対して頑張って勉強したことがあちこちで活かせると気づくと、胸が高鳴るだろう?

参考文献

線形空間論入門

線形空間論入門

Amazon

*1:そもそも「和」と呼んでいる時点で可換であって然るべきなのだが。